
医療スクラブが毎週"即完売"するブランド──FIGSはなぜニッチ市場から爆速で上場できたのか
火曜日の朝、夜勤明けの看護師がスマホを握りしめてサイトを更新し続ける。狙いは数量限定の新色スクラブ。数分で売り切れるからです。これは限定スニーカーの行列の話ではなく、医療用ユニフォームの話です。
世界で最も退屈な日用品と思われていた白衣を、毎週の争奪戦が起きる対象に変えたのがFIGSです。2013年に病院の駐車場でトランクからスクラブを売っていた2人が、わずか8年でニューヨーク証券取引所に上場しました。上場初日の時価総額は約44億ドル。しかもそのオンラインストアは、いまあなたが触っているのと同じShopifyで動いています(Contentsquare導入事例)。

広告に金を燃やして赤字を掘る、そんな2010年代型D2Cの勝ち筋が通用しなくなったいま、FIGSは黒字のまま爆速で伸びました。本記事では、このニッチ市場での異常な成長を、StoreHeroが使う高単価・高付加価値モデル と コミュニティ活用モデル の掛け合わせとして読み解き、Shopifyマーチャントが真似できる具体まで分解していきます。
まず、ありえない成長スピードの話から
理屈の前に、事実を伝えます。スクラブという、一見コモディティ商品の市場で、FIGSはこう動きました。
- 2013年:デザイナーのHeather Hassonと金融出身のTrina Spearが創業。最初の販売チャネルは病院の駐車場。朝7時と夜7時のシフト交代を狙い、コーヒー片手に車のトランクからスクラブを手売りした。
- 2019年:年商1億ドルを突破。しかも黒字。
- 2020年:売上は前年比+138%の2.63億ドルへ。純利益は約5,000万ドル。赤字垂れ流しが常識のD2C界で、伸びながら利益を出していた(Business of Business)。
- 2021年:NYSE上場。公開価格22ドル、時価総額44億ドル。アクティブ顧客150万人。女性の共同創業者2人による史上初の上場であり、Robinhood経由で医療従事者がIPO価格で株を買える仕組みまで用意した。
ここでShopifyマーチャントが見逃してはいけないのは、この成長が特別なプラットフォームの上ではなく、Shopify,Nosto(レコメンド)+,Heap/Contentsquare(行動分析)という、誰でも手が届く構成の上で起きたという事実です。つまりFIGSがやったことの大半は、あなたのストアでも再現の射程に入ります。
では、何がこのスピードを生んだのか。順に解剖します。
FIGSの正体──医療スクラブを「着る誇り」に変えた発明
FIGSが最初にやったのは、新しい生地を作ることではなく、市場の見方を変えることでした。彼らは医療従事者をアスリートとして捉え直しました。12〜16時間立ちっぱなしで人命に向き合うプロに、ヨレヨレの作業着しか選択肢がないのはおかしい。この一点から、機能的ラグジュアリーという新しいカテゴリーが生まれます。
その物的な裏づけが、自社開発素材のFIONx(ポリエステル72%・レーヨン21%・スパンデックス7%)です。4WAYストレッチ、吸湿速乾、防シワ、形状・色保持に加え、抗菌技術Silvadur™を表面コーティングではなく繊維レベルで織り込んでいるのが肝で、洗濯を繰り返しても抗菌・防臭・耐久が落ちにくい。硬く蒸れる従来品からの落差が、価格2〜3倍を正当化する理由になりました。

顧客像も明快です。中核は22〜45歳のミレニアル・Z世代の医療専門職で、女性が売上の約75%。可処分所得があり、実用性だけでなく自己表現や社会的意義にも反応する層です。彼らにとってスクラブは、ただの制服ではなく、職場で12時間まとう自分の一部になりました。
数字で見るFIGS: DTC比率 約98%/NPS 80超/顧客獲得コスト 約39ドル(2018〜2020年で61%減)/初回購入後のリピート率 約50%/アプリ経由の購入が60%超/粗利率 68〜70%(直近は67%台へ低下)。出典は Store Growers、Digital Chapter。
グロースモデルで読み解く──高単価×コミュニティの掛け算
StoreHeroはShopifyストアの伸ばし方を15のグロースモデルで捉えます。FIGSはひとつのモデルでは説明できません。最も実態に合うのは、高単価・高付加価値モデルを主軸に、コミュニティ活用モデルを掛け合わせた二層構造です。
高単価・高付加価値モデルは、素材・技術・デザイン・保証といった差別化で高い理由を可視化し、納得感で売るモデル。顧客は買う前に比較・情報収集をするので、価値を伝えるコンテンツ投資が要になります。FIONxとリッチな商品ページは、まさにこの主軸です。
コミュニティ活用モデルは、熱量の高いコミュニティの中で権威と信頼を築き、第三者の推薦で低コストに認知を広げるモデル。関係構築→話題化と販売の両立→自社ブランドのコミュニティ化、という順で進みます。FIGSにとってのコミュニティは、最初から目の前にありました。病院という、世界一密度が高く、口コミが一晩で回る職場です。
この二層がなぜ強いのか。高単価の最大の壁は、高い金額を払う不安です。そして、その不安を最も強く溶かすのは、同じ職業の先輩・同僚が現場で使って認めているという事実です。
FIGSは高単価で価値を作り、コミュニティでそれを信頼に変換しました。だから広告に頼らずCACを下げられ(前述の61%減)、値引きに頼らず高粗利を守れた。伸びながら黒字という離れ業の正体は、この掛け算にあります。
施策をShopify運用の視点で解剖する
ここからが本題です。FIGSの代表的な施策を、面白いところは遠慮なく深掘りしながら、Shopifyでどう再現するかまで落とします。
① 商品ページで購入理由を一行も逃さず可視化する
FIGSの商品ページは、高単価・高付加価値モデルの教科書です。スクラブ1着ごとにスタイル名がつき(女性向けのCatarina、Casma、男性向けのChisec、Leonなど)、それぞれにシルエットの違いが言語化されています。たとえば Catarinaは深めのVネック・1ポケット・クラシックフィット、Chisecは3ポケットで、うち2つは脇の縫い目に隠した設計 といった具合に、ポケットの数と位置、フィット感、サイズの出方(true to size)まで具体的に書かれています。

素材説明も抽象論で終わりません。FIONxの抗菌は匂いの原因菌の繁殖を抑え、結果として製品寿命と耐久性を延ばす、というように、機能をベネフィットと寿命の話まで接続しています。
スペックの羅列ではなく、12時間シフトのリアルにどう効くのかを語っているのがポイントです。さらに前述のとおり、FIGSはNostoでレコメンドを出し、Heapで行動を計測しながら、この商品ページ自体をA/Bテストで磨き続けています。
Shopifyではこう実装する:商品メタフィールドで素材・機能・お手入れ・フィット・ポケット構成を構造化し、専用セクション(機能アイコン、サイズの出方、着用シーン、比較表)として並べます。商品の構造化データ(JSON-LD) でリッチリザルトに対応し、検討中の検索流入を取りこぼさない。レビューは Judge.me で職種つきで集め、レコメンドは Nosto でコーディネート提案に使う。FIGSが実際にやっている構成は、そのままShopifyマーチャントの標準装備にできます。A/Bテストは、VisuallyやRolloutsを使って実施できます。
② 毎週のカラードロップ──医療アパレルにスニーカー文化を持ち込んだ
ここがFIGSで一番おもしろい施策です。彼らは定番デザインの限定カラーを毎週少量だけ投入し、売り切れたら終わりにしています。限定カラーは少量生産で、売り切れたら二度と戻らない。スニーカーやストリートブランドのドロップを、白衣に移植したのです。

普通に考えれば、医療現場は色の規定が厳しく、ドロップなんて成立しないはずです。ところが成立しました。理由は、限られた職場のワードローブだからこそ、許される範囲の新色が自己表現になるからです。
毎週の新色は、ルールの中で個性を出したい医療者にとって、小さな楽しみの供給になりました。熱量の高さは、新色のドロップを追いかけるコミュニティ(@wfcolordrop など) が自然発生するほどです。スクラブの色を追うファンアカウントが存在する、という事実そのものが、このブランドの異常さを物語っています。
仕掛けの妙: ドロップは売上そのものより、トラフィックを生む装置として効いています。発売当日に流入した顧客の売上の約90%は、限定色ではなく定番カラーのIconsに流れます(Digital Chapter)。つまり毎週の限定色は、定番をフルプライスで買ってもらうための来店動機。希少性で人を呼び、高粗利の定番で回収する——派手さと利益が両立した設計です。
Shopifyではこう実装する:新色は事前告知(coming soon)と入荷通知登録で期待を溜め、発売日に Klaviyo のBack in Stockやアプリのプッシュで一斉送客します。必要なら予約・抽選(RuffRuff 予約販売 など)も。肝は、限定色は煽る一方で、定番カラーの在庫は絶対に切らさないこと。希少性と安定供給を同じカレンダー上で回すのが、このモデルの呼吸です。
③ 現役の医療者アンバサダー──広告費を溶かさない認知エンジン
FIGSのアンバサダーはインフルエンサーではなく、1,000名を超える現役の医師・看護師・医学生です。過酷なシフトで実際に着て働く当事者が発信するから、どんな有名人広告より説得力がある。この草の根の信頼が、CACを2018〜2020年で61%も押し下げ、39ドルという低水準を実現しました(Modern Retail/Store Growers)。広告で母数を広げる前に、信頼を伴う認知を安く積み増すコミュニティ活用モデルの王道です。

FIGSのアンバサダー登録ページ
Shopifyではこう実装する:Shopify Collabs で紹介リンク・成果計測・報酬支払いを一元管理。より攻めるなら Social Snowball も。1人1リンク、指名キーワード広告の禁止(自社広告とのカニバリ防止)といった運用ルールは、最初に規約として明文化しておくと荒れません。
④ ソーシャルプルーフで高い納得を積み上げる
NPS80超、現役看護師による製品テスト、職種つきのレビュー。FIGSは第三者の支持を購入理由に変えています。高単価ほど、これだけの専門職が選んでいるという事実が迷いを消します。アンバサダーが生むUGCは広告にもサイトにも還元され、同じ素材が何度も働きます。

Shopifyではこう実装する:Judge.me で職種・利用年数つきのレビューを集め、商品ページと広告の両方に展開。アンバサダーのUGCは、承認するだけでサイトにページ化・セクション化できる仕組みで、商品ページや特集ページに差し込みます。
⑤ 参加券型──白衣をコミュニティの会員証にする
コミュニティ活用モデルの最終段階は、ブランド自体をコミュニティにすることです。FIGSはここを、買う=仲間に入るという参加券型の設計で実現しています。アプリ会員への限定セールと新色の早期アクセス、病院やクリニックがロゴ入りで一括発注できるB2BプラットフォームのTEAMS(前年比+25%)、そして医療密集地に構えた体験拠点のCommunity Hub。LA1号店は売上の40%超が新規顧客で、リアル店舗が新規獲得装置として機能しています(FIGS IR)。

これも本来、医療ユニフォームとは結びつかない発想です。制服の会社が、会員制クラブのような帰属を売る。けれど医療者は、燃え尽きやキャリアの悩みを共有したい強いつながり欲求を持つ職業集団です。だからこそ、製品の外側に居場所を作る施策がそのまま刺さりました。
Shopifyではこう実装する:組織向けの一括発注は Shopify B2B(卸・組織アカウント)で、会員限定販売・早期アクセスは RuffRuff 予約販売やLocksmith、会員ランクやコミュニティ機能は VIP や Growave で構築します。ポイント還元だけでなく、上位ランク限定の先行販売・限定色・イベント招待など、体験をインセンティブにするのが高単価ブランドのコツです。
⑥ 顧客を株主にする──コミュニティの最終形
FIGSが上場時にやったことの中で、最も象徴的なのがこれです。彼らはRobinhoodを通じて、個人投資家、とりわけ医療従事者がIPO価格で株を買える史上初の仕組みを用意しました。顧客がファンを超えて株主になると、帰属意識も推奨も一段深くなります。自分が一部を所有するブランドの成長は、もはや他人事ではない。これは、コミュニティ活用モデルの自社コミュニティ化を、資本のレベルまで突き抜けさせた施策です。
ニッチで熱量の高いコミュニティを持つブランドほど、この一手は効きます。購入の次に来る関わり方として、所有を用意したわけです。
Shopifyではこう実装する:株式付与そのものは上場・資金調達の領域で、Shopifyの外にあります。ただ考え方は応用できます。日本なら株式投資型クラウドファンディングやコミュニティラウンドでファンを株主化する道があります。もっと手前の現実解として、オーナー体験の擬似化(新商品の共創投票、会員限定の意思決定参加、新色のネーミング募集、売上連動の特典など)を VIP や Growave の会員機能で設計するだけでも、購入を超えた所有と参加の感覚が生まれます。
⑦ 最後に、すべてをCRMと広告で循環させる
ドロップやアンバサダーで獲得した顧客は、必ずメール・LINEのリストに取り込み、CRMで育てます。FIGSはフルファネルのGoogle/YouTube広告も併用し、アンバサダーのUGCを広告クリエイティブに転用しています。認知(アンバサダー)→リスト化→CRM・広告→さらにファン化、という輪が一度回り始めると、新規もリピートも同時に効率が上がっていきます。
Shopifyではこう実装する:Klaviyo で顧客データを蓄積し、ウェルカム・カート放棄・購入後フォロー・買い替えリマインドを自動化。顧客データをMeta/Google広告に連携して、UGC広告の配信や優良アンバサダー候補の発掘につなげます。
では、爆速成長の本当の理由は何だったのか
施策を並べると、FIGSの速さの正体が見えてきます。一言でいえば、コモディティを当事者のアイデンティティに変え、その当事者コミュニティの信頼を複利で回したことです。具体的には4つの歯車が噛み合っていました。
- 退屈な日用品を誇りに変えた:機能的ラグジュアリーという再定義と、それを裏づけるFIONx。ここで初めて高い理由が成立した。
- 最初から濃いコミュニティが目の前にあった:病院という高密度・高信頼の職場。1人の満足が一晩で同僚に伝わるので、口コミとアンバサダーが広告を不要にし、CACが下がり続けた。
- 毎週の再来店動機を仕込んだ:ドロップが希少性で人を呼び、定番がフルプライスで回収する。買い替えサイクルに毎週の楽しみを重ねた。
- 伸びながら黒字だった:値引きに逃げず高粗利を守ったから、稼いだ利益を次の獲得とコミュニティに再投資でき、成長が自走した。
これはStoreHeroのグロース支援の現場でも日々取り組んでいることです。高単価・高付加価値モデルで価値を可視化し、コミュニティ活用モデルで信頼に変え、その信頼を商品ページ・ドロップ・アンバサダー・会員/B2B・株主化・CRMという施策で循環させる。どのモデルを主軸に置き、何を掛け合わせるかを決めることが、施策選びの前にやるべき最重要の意思決定だ、という私たちの主張を、FIGSはきれいに証明してくれています。
見落とせない死角──プレミアムの土台が揺らぐとき
ただし、この型には急所があります。高単価・高付加価値モデルの大前提は、価格に見合う品質です。FIGSは近年、毛玉や生地の薄さといった品質クレーム が増え、粗利率も67%台へ下がりました(2025年Q1の業績)。品質という土台が揺らぐと、ドロップもアンバサダーも逆回転し、最大の資産であるコミュニティの信頼まで傷つけかねません。だからこそFIGSは、俳優Noah Wyleと組んだ 医療従事者支援のアドボカシー のように、コミュニティへの貢献でブランドの意味を再強化し続けています。教訓は明快です。高単価モデルでは、割引クーポンで売上を取りにいくより、品質・実績・体験で売る設計を死守することが、結局いちばん速い。
Shopifyグロース現場への持ち帰り
FIGSは特別な才能の物語ではなく、再現可能な設計の物語です。職人技・素材・専門性で高付加価値を持つ日本のブランドにも、同じ順序が効きます。
まず、語りたくなる体験と共感できる価値観があるかを見極める。次に、当事者コミュニティ(職業・趣味・ライフスタイル)の中で信頼を作り、アンバサダー・レビュー・UGCで低CACの認知を積む。そして会員・予約・B2B、さらには株主化まで、購入の先の関わり方を用意してリピートと単価を伸ばす。
効果は売上だけで測らないこと。アンバサダー/紹介経由の売上、紹介プログラムのアクティブ率、UGC発生数、会員継続率、B2Bの反復率まで見て、コミュニティが健全に回っているかを確かめます。高単価・高付加価値モデルの最初の問いは、どう安く見せるかではありません。誰の信頼を借りて、高い理由を納得してもらうかです。
StoreHeroは、Shopify事業者のグロースモデルの見極めから、商品ページのリッチ化、アンバサダー・コミュニティ施策、UGCのサイト掲載・CRM・広告連携までを一貫して支援しています。良い商品なのに価格で比較される、ファンの熱量を売上につなげきれていない。そう感じたら、まずは Shopify無料ストア診断 からお気軽にご相談ください。
参考記事・出典
- FIGS が Shopify と Heap/Contentsquare で CVR を改善(Contentsquare 導入事例)
- FIGS の Google 広告 / フルファネル戦略(Store Growers)
- FIGS: Growth Marketing Deep Dive(Digital Chapter)
- FIGS のアンバサダープログラム(Modern Retail)
- FIGS の IPO と Robinhood でのリテール開放(Fast Company)
- FIGS 上場・時価総額44億ドル(Business of Business)
- FIGS Q1 2025 業績・粗利低下(Investing.com)
- 品質に関するレビュー・評価(Nurse.org)