D2C/EC市場の競争が激化する中、単なるスペックの優劣だけでは商品は売れなくなっています。顧客さえ気づいていない本音(インサイト)をどう掴み、それをどう売れる文脈に落とし込むのか。
今回は、元サッカー日本代表・鈴木啓太氏が率いるAuB(オーブ)株式会社の田中氏と、カラーコンタクトレンズ市場で数々のヒットを飛ばす株式会社シンシアの篠池氏をお招きしました。
「データと論理で攻めるAuB」と「感性と現場観察で攻めるシンシア」。対照的に見える両者のアプローチから、商品開発と販売戦略の本質を解き明かします。

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顧客インサイトの正体:欲しいものを聞いてはいけない
黒瀬:商品開発において最も重要な顧客を知るというプロセスですが、お二人は具体的にどのようにインサイト(顧客の本音)を掘り下げていますか?
篠池(シンシア):まず大前提として、お客様に「何が欲しいですか?」「どんな商品が好きですか?」と聞いても、ヒットにつながる答えは返ってこないと思っています。
なぜなら、お客様が口にするのは「今、市場で人気がある商品の好きなところ」だからです。まだ世の中にない、けれど本当に求めているものの答えは、お客様自身も持っていません。
黒瀬:アンケートの回答をそのまま商品化しても売れない、というのはよくある話ですね。
篠池:そうです。だからこそ、会話の中で表面的な言葉ではなく、「なぜそう思うの?」「それはどういうこと?」と深掘りを繰り返します。そうすると、ふとした瞬間に「インサイトのかけら」のようなものが見えるんです。それをキャッチして、自分たちの感性とつなげられるかが勝負ですね。
田中(AuB):私も非常に共感します。言葉というのは、その場の空気に合わせたり、無意識に自分を良く見せようとしたりして、かなりデフォルメされています。バイアスがかかっているんです。
だから私は、言葉よりも行動を見ます。
例えば健康に関心があると言う人が、実際にはどんな生活リズムで動いているのか、SNSでどんな投稿をしているのか。無意識にとっている行動の中にこそ、その人が抱える本当の悩みや解決したい課題が隠れています。
「バレたくないけど盛りたい」矛盾の中にこそ発明がある
黒瀬:篠池さんが仰ったインサイトのかけらを見つけた後、それをどうやって売れる商品に昇華させるのでしょうか?
篠池:今の市場の当たり前や常識を疑うことから始めます。例えば、ブランドとして10年続いている「LuMia(ルミア)」を作った時の話です。当時は目を大きく見せる(盛る)ために着けるのだから、着けていることが相手に分からないと意味がないというのが業界の常識でした。
しかし、お客様の声を深掘りして常識を疑ってみると、「盛りたい。でも、バレたくない」というニーズが見えてきたんです。
黒瀬:「盛る(変化させる)」ことと「バレない(変化させない)」ことは、一見、矛盾しますよね。
篠池:そうです。普通に考えれば対立する要素です。バレないものを作るのは簡単ですが、それでは盛れないので意味がない。逆に盛れるものはバレる。
しかし、一見矛盾しているけれど、確実に存在するニーズを満たすことができれば、それは単なる新商品ではなく新しい発明になります。「盛れているのに、バレない」というギリギリの境界線を見極めて商品化した時、今まではなかった大きなジャンル「裸眼系」が生まれました。前提を覆す勇気が、ヒットには不可欠です。
田中:その「かけら」を見つけるのがN=1(特定の個人)の徹底的な観察ですね。私の考えでは、N=1の観察で「これは!」という種を見つけ、それがビジネスとして成立する市場規模があるかを定量調査(アンケート等)で確かめる、という使い分けが重要だと思っています。
ただ、インサイトが見つかっても、それをどう表現し、どう伝えるかという言語化・クリエイティブの壁が次に待っています。
直感は当てずっぽうではない。情報の蓄積が確信を生む
黒瀬:篠池さんのアイデアの源泉はどこにあるのですか?
篠池:常にアンテナを張っています。普段の生活で関わる方の目を見て「あ、あのメーカーのレンズだな」と思ったら、「なんでそれ選んだの?」と聞くこともあります(笑)。また、違う業界のことでも、カラコンに転用できないか考えています。
そうやって日々情報を積み重ねていると、お風呂に入っている時などに、フッとアイデアが降りてくることがあります。これは思いつきではなく、情報の蓄積から導き出された確信なんです。
黒瀬:その確信を社内で通すのは難しくないですか? データがないわけですから。
篠池:めちゃくちゃ難しいです(笑)。「なぜ売れるの?」と聞かれても、前例がないのでデータが出せない。自分の確信を言語化できず「絶対来るから!」と言い続けるしかない時期もありました。
逆に言えば、「競合がこうで、データがこうだから」と説明しやすい企画は、すでに競合がいるレッドオーシャンだということです。説明できないけれど確信があるものの方が、ブルーオーシャンである可能性が高いですね。
失敗から学ぶ:クリエイティブの罠と5つのゲート
黒瀬:商品開発における失敗談と、そこから得た教訓を教えてください。
篠池:フチがあるカラコンで、そのフチがぼかされていて自然な「ちゅるん感」が出るというレンズを開発した時のことです。レンズ自体は良かったのですが、見せ方(クリエイティブ)で失敗しました。
「ちゅるんレンズ」が一番伝わる表現として、メインビジュアルをドーリー系にしすぎてしまったんです。その結果、ターゲット層を狭めてしまい、本来使ってもらえる層が、これは私向けの商品じゃないと感じてしまった。
黒瀬:クリエイティブが尖りすぎたわけですね。
篠池:はい。前述のドーリーなクリエイティブも完成度は高くて、とても可愛かったんです。しかし、私たちは商品を売らなければなりません。写真集としては完成度が高い写真が、商品が売れる写真とは限らないということを分かった上で、商品開発側は撮影ディレクションをする必要があります。。
「レンズ(商品)」「クリエイティブ(見せ方)」「タイミング」の3つがバチッと合致しないと、爆発的なヒットにはならないと痛感しました。
田中:私はコンディションをととのえるマルチ栄養プロテインの開発をしたときです。プロテインならこうあるべきという機能的な価値や品質へのこだわりを優先しすぎて、ユーザーが求めていた情緒的価値を見落としていたんです。
この経験から、現在は商品開発において「5つのゲート」を設けてチェックしています。
- ブランド整合性:AuBのブランドとしてやる意味があるか
- 顧客解釈:お客様にとって価値があるか(ニーズ)
- 実装可能性:どう売るか、マーケティングプランはあるか
- 実現性:製造・開発が可能か
- 倫理・品質:安全性やコンプライアンスは守られているか
これらを網羅的に確認しますが、それでも顧客解釈(ニーズ)を読み違えるリスクは常にありますね。
販売戦略:奇跡の1枚とピボットできる名前
黒瀬:商品を作る段階で、売り方はどこまで決めていますか?
篠池:キャッチコピーなどは決めていますが、正直なところ写真は撮ってみないと分かりません。「これだ!」という奇跡の1枚が撮れた時は、もうそれだけで売れる確信が持てます。
例えば「LuMia(ルミア)コンフォート」という、シリコーンハイドロゲルという新素材の商品で、当時、シリコーンハイドロゲル素材がまだカラコン市場にない時期でした。着け心地の良さとデザインの自然さと潤いを1枚で表現できた写真が撮れた瞬間は、撮影スタジオのモニターを見て、スタッフ皆で歓喜しましたね。
田中:私は、出した後の修正(ピボット)を前提とした設計を重視しています。最近発売したインソール「CORE STEP(コアステップ)」は、販売当初からいくつかのニーズを想定して、ターゲットを設定しています。どのニーズに対してどんな施策を行うか、もし効果がなければ別のニーズに切り替える。そうすることでターゲットのピボットを迅速に行えるように設計しています。
黒瀬:ターゲットをガラッと変えたんですね。
田中:はい。商品名を抽象的にしていたのもそのためです。もし仮に「美脚インソール」という名前にしていたら、男性や子供向けに売ることはできませんでした。CORE STEPという機能を表す名前にしておいたことで、ブランドの核は変えずに、ターゲットや訴求だけを柔軟に変えることができたんです。
篠池:そのフットワークの軽さは重要ですよね。最初からガチガチに決めすぎず、市場に出して反応を見ながら、その後の新色を出したり、ターゲットを微修正したりする遊びを持たせておくことが、リスクヘッジにもなります。
今後の展望:お客様に良いものが届く構造を作る
黒瀬:最後に、お二人の今後の展望をお聞かせください。
篠池:今の流通構造(メーカー→卸→小売→お客様)に対して課題を感じています。この構造だと、どうしても各プレイヤーの事情が反映され、お客様にとって良い商品という軸だけでは商品開発が出来ません。
過去に売上規模拡大のために流通を広げ、ディスカウントストアやドラッグストア等、展開したことがありますが、収益構造の観点からもお客様第一が守れなくなり撤退した経験があります。だからこそ、メーカーが魂を込めて作った良いものを、お客様に直接届けられるD2Cのような形で、新しいチャレンジをしていきたいですね。
田中:AuBとしては、まずはお客様との入り口となる商品をしっかり広めること。そして、一度接点を持ったお客様に対し、他の商品も含めて提案し、生活全体の健康習慣を作っていただくような取り組みを強化したいです。
売って終わりではなく、クロスセルやLTV(顧客生涯価値)向上を通じて、お客様の人生に伴走するようなブランドを目指しています。
黒瀬:本日は、商品開発の裏側から具体的な戦略まで、非常に濃いお話をありがとうございました。
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