下請けメーカーから、世界を魅了するD2Cブランドへ。「ARAS」が実践する、クリエイティブとデータの“経営的”融合

今回ご登場いただくのは、石川樹脂工業株式会社の専務取締役、石川勤氏です。同社が運営するテーブルウェアブランド「ARAS(エイラス)」は、「1000回落としても割れない」という圧倒的な機能性と、食卓を美しく彩るデザイン性を両立させ、テーブルウェアの市場で異彩を放っています。

老舗のOEMメーカーだった同社がいかにして自社ブランドを立ち上げ、多くのファンを獲得するに至ったのか。その裏側には、クリエイターを経営の中枢に巻き込む独自の組織論や、最先端の理論に基づく広告運用、そしてメルマガを主力チャネルに変えたCRMの深化がありました。

「ARAS」の急成長を支える緻密な戦略と、今後のグローバル展開にかける想いを深堀りします。

石川樹脂工業株式会社 専務取締役 石川勤様

OEMからの脱却と、高付加価値ブランド「ARAS」の誕生

黒瀬:今や星野リゾートをはじめとする高級ホテルや、街中の人気飲食店でも見かけるようになった「ARAS」。まずは、このブランドが立ち上がった経緯から教えていただけますか?

石川様:ARASをリリースしたのは2020年3月ですが、構想自体はその数年前からありました。

もともと石川樹脂工業は、多種多様なプラスチック製品を作るB2Bの会社、いわゆる「下請け」のOEMメーカーでした。私が家業に戻った2016年頃は、会社の立て直しを図りつつB2B営業に奔走していましたが、社長である父も私も「いつかは自社ブランドを持ちたい」という想いを強く持っていました。

実はARASの前身として、「Plakira(プラキラ)」というブランドを展開していました。現在ARASのデザインパートナーでもあるクリエイティブ集団「secca(雪花)」さんと共に開発した商品は非常に質が良く、Amazonでも人気が出ました。しかし、そこで「ビジネスモデルの限界」に直面したのです。

黒瀬: 具体的にはどのような限界だったのでしょうか?

石川様: 圧倒的な「客単価の低さ」です。コップ1個800円〜1,000円の世界ですから、客単価はどう頑張っても3,000円〜4,000円止まり。例えば、憧れの星野リゾートさんに採用されたとしても、1館あたりの導入数は数百個程度で、売上で言えば数万円〜十数万円にしかなりません。「これではブランドとして未来を描けない」と痛感しました。

また、「Plakira」という既存ブランドのイメージを引きずったままでは、seccaさんと議論していた「食体験を拡張する」「工芸の一歩先へ」といった高い理想を実現できないことも分かってきました。

そこで、ブランディングもビジネスモデルもゼロから作り直し、高付加価値なD2Cブランドとして勝負しようと決意して生まれたのが「ARAS」です。

黒瀬: 立ち上げ時から「高単価・高付加価値」は絶対条件だったわけですね。

石川様: おっしゃる通りです。当時はちょうどD2Cという言葉が日本でも定着し始めた時期で、Fabric Tokyoさんや土屋鞄さんの事例やTakram佐々木さんの書籍などで徹底的に研究しました。

ネットでも伝わる独自性、語れるストーリー、そしてビジネスとして成立する客単価。これらD2Cの成功条件と、seccaさんが持つ情緒的な世界観をどう掛け合わせるか。

素材開発から見直し、原価を度外視してでも「本当に良いもの」を作る。私のルーツである山中漆器の伝統と最新の樹脂技術を融合させ、退路を断って「食器」という市場に挑みました。

伝統、デザイン、テクノロジーを融合させたARASの製品

Makuakeでの成功と、Shopifyへの「勝ちパターン」移植

黒瀬: 2020年のリリース直後、コロナ禍に見舞われました。初期の立ち上がりはどうでしたか?

石川様: 2020年2月、東京ドームでの展示会で先行発売を行い手応えを感じていた矢先、コロナ禍で世の中が一変しました。「リアル販売はもうできないかもしれない」という危機感の中、活路を見出したのが「Makuake」でした。

結果として、これが大きな転換点になりました。初回で1,700万円近い応援購入が集まり、我々の予想を遥かに超える反響をいただいたのです。

黒瀬: それだけの成功を収めて、すぐに自社EC(Shopify)でも売れるようになったのでしょうか?

石川様: いえ、すぐには売れませんでした(笑)。Makuakeをもう一度実施した後、その勢いを自社ECに繋げようと広告運用を本格化させました。

ここで大きかったのが、「Makuakeで作ったクリエイティブと構成」を自社サイトに移植したことです。

Makuakeのプロジェクトページというのは、商品の機能、ストーリー、利用シーン、開発者の想いまで、全ての情報を縦長の1ページに凝縮する必要がありますよね。あの「型」こそが、商品価値を伝える最適解だと気付きました。

何もないところからLPを作るのではなく、Makuakeで検証済みの「勝ちパターン」をShopifyに落とし込むことで、自社ECでの販売もスムーズに立ち上げることができました。

工場内では最新鋭のロボットが休みなく製造する

クリエイターと共に「数字」を見る。経営会議レベルの連携

黒瀬: ARASさんの成長要因として、やはり「クリエイティブの力」は外せません。「割れない」という機能と「おしゃれ」という情緒を伝えるために、どのような体制で制作しているのでしょうか?

石川様: 私たちは、クリエイターを単なる発注先ではなく、「経営パートナー」として捉えています。

一般的には、詳細なブリーフ(指示書)を渡して「これを作ってください」と依頼することが多いと思いますが、私たちはあえてそれをしません。「ターゲットはここで、伝えたい要素はこれ。あとはその感性で自由に遊んでください」と、彼らの才能を縛らないスタンスを徹底しています。

黒瀬: 自由度が高い分、ビジネス的な成果とのバランスが難しくなりませんか?

石川様: そこを埋めるために、クリエイターの方々には経営会議にも参加してもらっています。「この動画は美しかったけれど、Meta広告のCVRはこれだけ低かった」「逆にこのクリエイティブは、なぜこれほどROASが出たのか」といった生の数字を、包み隠さず全て共有します。

黒瀬: クリエイターが管理画面の数字まで見ているブランドは珍しいですね。

石川様: そうですね。でも、彼らはプロフェッショナルですから、数字を見せれば「じゃあ次はこうしよう」「ここが伝わっていないなら、こういう表現ならどうだ」と、クリエイティブの力でビジネス課題を解決しようとしてくれます。

単に綺麗な映像を作るのではなく、「売れるための美しさ」を一緒に追求する。数字を共通言語にして議論ができる関係性が、ARASのクリエイティブの強さの源泉だと思います。

Instagramアカウントにもクリエイターと作り上げた投稿が並ぶ

「脱・初期層」。幅広い顧客へ届けるための多面的なアプローチ

黒瀬: ブランドが成長し、初期のアーリーアダプター層から、より幅広い層へと顧客を広げていくフェーズに入っています。広告運用や集客において、変化させている点はありますか?

石川様: おっしゃる通り、ターゲットが広がるにつれて「Meta広告一本足打法」では通用しなくなってきました。そこで現在は、Pinterest広告など新しい媒体へのチャレンジも進めています。ARASは視覚的な情報が重要なので、感度の高いユーザーが集まるPinterestとは相性が良いはずだという仮説です。

また、幅広いお客様に魅力を「伝え切る」ために、サイト(Shopify)自体のコンテンツ拡充とUI/UX改善にも注力しています。初期のファンは直感的に買ってくれましたが、検討層のお客様には「本当に自分の生活に合うのか?」「他の食器とどう違うのか?」といった疑問に丁寧に答える必要があります。

12月に行ったサイトリニューアルでは、商品数が増えて複雑化していた動線を整理し、初めての方でも迷わず、商品の魅力を深く理解できる構成に刷新しました。結果としてCVRも向上傾向にあります。

リニューアルしたARASのShopifyサイト

「今さらメルマガ?」を覆した、CRMによる丁寧な対話

黒瀬: 新規獲得だけでなく、CRMにも注力されていますね。

石川様: 正直に言うと、1年前までは「2024年にもなってメルマガ? 誰も読まないでしょ」と懐疑的でした(笑)。しかし、StoreHeroさんたちと本格的にCRMに取り組み始めて、その認識は180度変わりました。

黒瀬: 何が変わったのでしょうか?

石川様: 「売り込み」ではなく「丁寧なブランド体験の提供」に変えたことです。Makuakeや広告経由で購入してくださった約15万人以上のお客様に対し、購入後のメンテナンス方法や、季節に合わせたテーブルコーディネートの提案など、ARASのある暮らしが豊かになる情報を丁寧にお届けする。

すると、驚くほどの反応が返ってきました。一度商品を使って良さを知っているお客様だからこそ、私たちの提案に対する熱量が高い。今ではメルマガは、広告と並ぶ強力な売上の柱になっています。

CRMは単なるリピート施策ではなく、ブランドの思想を伝え、お客様との関係性を深めるための「対話」なのだと再認識しました。

Shopifyの最先端活用と、海外市場への「本気」の挑戦

黒瀬: 最後に、今後の展望やStoreHeroへの期待について教えてください。

石川様: 世の中の変化のスピードは凄まじく、ShopifyのエコシステムやAI技術も日々進化しています。これまでの成功体験に固執せず、常に新しい「勝ち筋」を探さなければなりません。

StoreHeroさんには、最先端のShopify活用事例や知見の活用を期待しています。複雑化するカスタマージャーニーをどうAIでハックするか、新しいアプリをどう組み合わせてCRMを自動化するか。そういった技術的な「攻め」の部分を共に担っていただきたいです。

黒瀬: 海外展開についてはいかがでしょうか?

石川様: 最重要テーマの一つです。すでに香港や台湾、アメリカなどへの展開を見据えていますが、単に日本の商品をそのまま持っていくだけでは不十分だと考えています。

現在、海外マーケットの食文化やニーズに合わせた商品開発も進めています。日本で確立した勝ちモデルをベースにしつつ、商品自体もバージョンアップさせて、本気でグローバルブランドを目指します。

来年リリース予定の新商品は、まさに世界を見据えた自信作です。石川樹脂工業として、そしてARASとして。日本のものづくりの誇りを胸に、世界中で「食体験」をアップデートしていく挑戦を続けていきます。

黒瀬: ARASの更なる成長に向けてStoreHeroもしっかり取り組んでいきたいと思います。本日はありがとうございます。

次の成長に向けた新工場の建設中

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