フラクタによる「可変できる柔軟性を持ったデザイン」とは。StoreHeroロゴリニューアルの裏側に迫る

StoreHeroではロゴをリニューアルし、順次サイトやプロダクトに反映していっています。ロゴデザインは、トータルブランディングパートナーであり、Shopifyにも精通したフラクタさんにお願いしました。

ロゴの制作過程を振り返りながら、そこに込められた思いや今後ロゴが果たしていく役割について、フラクタ代表・河野貴伸さん、デザイナー・石山航大さんに、黒瀬がお話をうかがいました。

(黒瀬)まずはHero Magazineの読者の方に、自己紹介をお願いします。
(石山)フラクタでデザイナーをしている石山です。StoreHeroさんのロゴリニューアルを担当させていただきました。フラクタは、新たなブランドを立ち上げたり、すでにあるブランドをより発展させたり、最終的にはブランドが自走できるようお手伝いする会社です。デザイナーである私は、主にブランドのクリエイティブにおける、デザインとして目に見える部分をつくる仕事を担当しています。

デザイナー 石山航大さん

(河野)フラクタ代表の河野です。少し補足すると、僕たちが考えるブランディングとは単にロゴをデザインしたり、世界観を作ったりすることではありません。ブランドは基本的に運営・成長し続けなければならず、そのために差別化やブランド戦略が必要になります。ブランドが持続するためのシステムを作り、一緒に回し、最終的にはブランド自身が回せるようにするのが仕事です。

その中で石山くんが担当しているのが、システムにおけるクリエイティブの部分です。StoreHeroさんのロゴリニューアルの件では、誰が見てもStoreHeroさんのロゴだと識別できること、社内のメンバーがそのロゴに愛着を持ち、たとえばシールにして貼ったら気分が上がるなど、エモーショナルな部分の駆動になる役割を果たしています。

フラクタ代表 河野貴伸さん

(黒瀬)河野さんの言うシステムとは、ITに限らず仕組み全体のことを指しているんですね。

(河野)はい、全体です。今の時代はテクノロジーを使わないとスピードが出ないため使うことは使うのですが、ITに限定はしていません。ブランドが持続するための全体の仕組みを考え、作り、最終的にブランドが自分たちでそれを継続できるように伴走しています。

(黒瀬)アプローチは異なるけれども、最終的に目指すところはStoreHeroと同じなのかもしれませんね。

テクノロジーでグロース支援する会社をイメージするロゴに

(黒瀬)今回のロゴのリニューアルについて、河野さんに相談したのは2022年12月だったと思います。この取材時点(2023年8月28日)では世の中にお披露目してはいませんが、僕たちにしてはかなりコストを投下して作っていたプロダクトの形が見えつつあり、変化の時を迎えていました。従来、Shopifyマーチャントの方へのコンサルティングを中心にやってきたのを、開発したプロダクトを用い、さらにテクノロジーを活用した会社にしていくイメージを作りたいと考えたのがきっかけでした。

フラクタさんにお願いしたのは、僕らのことをよく知ってくれていて、親身になって話を聞き、相談しながらやっていけそうだと思ったからです。もちろん、河野さんご自身がShopifyにすごく詳しいことも大きかったのですが。依頼を受けて、いかがでしたか?

StoreHero代表 黒瀬淳一

(河野)StoreHeroさんは、代表である黒瀬さんの人柄がよく表れている会社だと思います。すごく真面目で、お願いしたら絶対に良い仕事をしてくれるだろうなと思える。でもそれは、StoreHeroや黒瀬さんのことを知らない人には伝わりにくい。特にデジタル領域を担う会社は、第一印象がすべてみたいなところがありますよね。

ロゴリニューアル以前のコーポレートサイトを見た時の第一印象は、Shopifyを用いて何かをやってくれそうな会社だというところに留まっていたと思います。しかしながら、今後黒瀬さんが目指していくのは、グロースハックという言葉のもとに、人もサービスも提供していくことであり、ロゴリニューアルによってその意思表示をしたいのかなと感じました。

(黒瀬)年末に依頼して、2023年3月くらいには出来上がりましたよね。これはロゴ制作においては、通常のスケジュールなのでしょうか?

(河野)長いと半年、1年くらいかかることもあります。昔は、一度制作すると同じロゴを50年くらい使い続けることもありましたから。今回のStoreHeroさんの場合は、3ヶ月くらいで最近の一般的なスケジュール感だと思います。ただし、ロゴが完成したからといってすぐにお披露目になるわけではありません。ロールアウトと言うのですが、大規模企業になると、各部署に新たなロゴについて説明できるようになってもらうための教育期間が必要になったり、看板や社用車にも適切に反映するための時間がかかります。リニューアル後のロゴが一般的に人の目にさらされるようになるのは、ロゴそのものが完成してから半年後になることもあります。

(黒瀬)ロゴに緑色で、メーターを表すビジュアルを入れていただきました。これはグロースの進展度を示すメーターで、開発しているプロダクトと大きくかかわりがあるものです。

当社でロールアウトまでに時間がかかったのは、プロダクトが完成するタイミングを見計らって新ロゴを出したいという意図があったからです。

新ロゴ

可変できる柔軟性を持ったロゴデザイン工程

(黒瀬)具体的にどのような流れでロゴを制作していただいたのか、過程を紐解いていきたいと思います。石山さんに担当していただくことになったのは、河野さんの抜擢ですか?

(石山)はい。河野から話があり、私が担当することになりました。会社概要と「こんなロゴにしたい」とのイメージというざっくりとした与件だったため、StoreHeroさんのサイトを拝見し、どんな事業を展開されているのか、何を目指しているのかを読み解くことから始めました。サイトに頻出する単語を抜き出し、そこからデザインコンセプトを4つほど提案させていただきました。デザインの目に見える造形だけを提案するというよりは、コンセプトそのものをご提案するところから始めていきました。

(黒瀬)正直なところ、今のウェブサイトはわかりづらいとの声もあります。ご覧になっていかがでしたか?

(石山)BtoB寄りの作りなのかなとは感じました。私がShopifyについて河野よりは不勉強だったのも、読み込む必要があった一因かもしれません。キャラクターが至るところに登場していて、勢いがあって楽しく、元気がある会社なのかなとのイメージも持ちました。StoreHeroという社名から、自分たちがヒーローを目指す意思表示なのかなとも迷いましたが、黒瀬さんからお話をうかがい、あくまでヒーローはクライアントであり、StoreHeroさん自身は黒子に徹するということが明確になりました。そのコンセプトを理解してからは、造形を作るほうに専念できたかなと思います。

(河野)僕自身はクリエイティブのプロジェクトに入ることはあまりないのですが、クリエイティブに限らず、基本的にはコミュニケーションしながら作るという概念です。クライアントに提出する前の段階で100%の完成度を目指さず、7〜8割の完成度で超高速で提出し、キャッチボールしながら精度を上げていく。だから最初に提出したコンセプトは、ヒーローはクライアントなのか、StoreHeroさん自身なのかの話を引き出すためのボールにすぎなかったということで、フラクタのセオリーどおりとも言えます。

(黒瀬)その考え方も僕たちのグロースの取り組み方と近いかもしれないです。ブランディングやクリエイティブでもそうなんですね。

(河野)普通は逆かもしれない。というのも、インターネットやデジタルが世に出てくる前にクリエイティブの主流だった紙メディアや看板、テレビCMにおけるクリエイティブは、世に出した後でしか検証ができなかった。何千万、何億円というお金を使って、一度の印刷で何万部も発行・放映してからの検証となります。だから、エージェンシーがクライアントとやり取りする際も、初回で完了するくらいの完成度のものを提出しているのだと思います。実際のお客様とのコミュニケーションで制度を上げていくのではなく、初めて世に出すときに最高の状態でないといけない。

一方のデジタルは、可変できる柔軟性を持たせることが重要になってきます。そのためには、DNAがあらかじめそのようになっている必要があり、可変できる状態でクライアントに提出しないといけない。今回のStoreHeroさんのロゴリニューアルで石山くんを抜擢した理由としては、彼が作るものはその柔軟性の遺伝子を持っているからその作り方はすごく今っぽいとも感じます。最初からまったくいじる余地がない状態で、それをいかに運用するかを考えるやり方だと、ブランドの成長度合いが下がってしまいます。「将来的にこういう道筋もあるよね」との前提で考えることを、最初の段階でやらないといけない。僕と石山くんのやり方はそこが近いと感じています。デジタルが主戦場になると、そのやり方がメインになってくるのかなとは思いますが。

(黒瀬)その作り方はデジタル領域の流派なのか、それとも人によるのですか?

(石山)ターゲットによっても異なりますし、広告とブランディングではデザイン面で異なる部分が大きいのではないかと思います。広告は、派手さや何か見たときの面白さで人の目を引くことがどうしても必要不可欠になり、デザインが主役とも言えます。一方のブランディングは、主役はブランドそのものや商品、サービスであって、デザインはそれらを助けるくらいの感覚です。

StoreHeroさんのロゴに関しては、私のデザインが主役になるとか、ロゴ自体が目立つのではなく、StoreHeroさんが何者なのかを把握することがもっとも大事なことでした。私だけでなく、それをStoreHeroさん自身にも考えていただき、納得できる進め方をさせていただいたと思います。

(河野)僕たちの仕事はブランドシステムを作り、回し、最終的にはブランド自身が自走できる仕組みを作ることであり、石山くんが担当しているのがそのシステムにおけるクリエイティブの部分だと述べました。僕たちがデザインしているものは、車や鉄道のように、走ってなんぼ、レースに勝ってなんぼのものです。車に例えると、その物体の美しさだけでなく、空気抵抗やカーブの曲がりやすさ、そして買ってから少なくとも5、6年は満足に走ってくれることが求められるわけです。

ウェブサイトのデザインについて、期間限定のキャンペーンのランディングページ一枚について言えば、走り続けることについて言及する必要はないのですが、特にeコマースサイトは、まさに走り続けるものです。今回のロゴリニューアルについても、そういった考えやプロセスが生きていると言えるのかもしれません。

(石山)仮に最初の段階で、私がコンセプトと造形を考え抜いた120%の完成系のロゴを4つ並べて「この中から選んでください」とお願いして、選んでいただけたとしても、後からやっぱり「コンセプトがちょっと違う」とか「込めたい思いが造形になっていないのでは」という疑念が生まれてしまったのではないかと思います。ですから、とにかくStoreHeroさんが持っている思いを理解し、デザインを作り上げていくことを重視しました。

(黒瀬)たしかに、最初にイメージはお伝えしましたが、いただいたものを拝見して気づきが生まれて、「やっぱりこうだと思います」といった具合に、何度か意見を言わせてもらいました。

(石山)StoreHeroさんに限ったことではなく、出てきたものを見て、気づきが生まれて、フィードバックされるのは往々にしてよくあることです。建設的で良いなと思いながら進めていった記憶があります。

(黒瀬)社員の意見を聞いたほうが良いというアドバイスがありましたよね。実際に聞いてみたところ、かなり意見が割れました。僕が「これだ」と思っていたものがあったのですが、社員からの意見は違ったり。StoreHeroにフルコミットで頑張っているメンバーだから、ロゴについても同じような考えを持つと思っていたのですが、意外でした。そのロゴデザインを選んだ理由を読むと、それぞれ納得できることが書かれていましたし。いろいろなものの見方がわかって良かったというか、自分の会社について、自分が持っていなかった視点を入れることができて良かったです。これも、ロゴリニューアルにおいては必要なプロセスなのかなと思いました。

ブランドとクリエイター双方にとってなかなか味わえない経験を

(黒瀬)何度かやり取りさせていただきましたが、難しかったところ、飛躍しなければいけなかったチャレンジングなところはありましたか?

(石山)まずは、4回のご提案のうち、最初の2回をコンセプトメイクに費やしたことです。

そこで「クライアントが右肩上がりに伸びていき、ヒーローになることを表現したコンセプトでいきたいという方向性が定まりました。コンセプトが定まってからは、造形の形を作っていくという点ではいつも通りの四苦八苦がありました。3回目のご提案からは、私が力を入れてお出ししたものだけではなく、考えた中途段階の造形案を20、30通りお見せし、一緒に選んでいただきました。私だけがチャレンジしていたわけではなく、黒瀬さんも一緒に悩み、考えてくださいました。そのプロセスで見えてきたものがたくさんありました。

(黒瀬)ひとつの葛藤としては、従来のロゴの横にヒーローのキャラクターをあしらっていました。最終的に、キャラクターは各所に掲載するけれど、ロゴはシンプルに、視認性を上げるという結論になったんですよね。あのキャラクターで覚えていただいているところもあったため、葛藤がありました。石山さんからキャラクターの使いどころなどのご提案をいただいたので、最終的に決断することができました。

(石山)ブランドが大切にしているものは資産ですから、寂しい気持ちもありますよね。ただ、ロゴのように小さく扱われるものにおいてキャラクターの扱いは難しいのです。ロゴそのものからは外しても、サイトの各所に掲載するなどの方法でキャラクターを残すブランドさんは多いです。ロゴはロゴでしっかりとしたものを作り、キャラクターはサイト上などでどのように生かすかのご提案をさせていただきました。

(黒瀬)葛藤の理由のひとつに、妹が作ったキャラクターだというのもあります。会社設立の際「マーチャントさんをヒーローにしたい」「自分たちにかかわってくれる人をヒーローにしたい」との思いを伝えるために作ってもらったキャラクターでした。そして、僕らが有名になれば、キャラクターを作った妹も有名になるかもしれない。そんな理由からも葛藤を覚えていました。

一方で、ロゴリニューアルにかかわってくれた石山さんたちをヒーローにしたいという思いもありました。中途半端にキャラクターが残ることで、石山さんたちがうまくワークしないとそれはそれで良くないなと思いました。中途半端な形にならずに両方生きるやり方をご提案いただいて、おさまるところにおさまったというか、スッと納得できました。

(石山)ご提案によって納得いただけて、解決できてよかったなと思います。

(黒瀬)僕が勉強不足だったのですが、デジタルデバイスと紙に印刷するのでは、色味が違ってくることがあるんですね。石山さん自らオフィスに紙に出力したものを届けてくださって、大事なことなんだと気づきました。

(石山)StoreHeroさんの場合は事業領域柄、デジタルベースで考えていくのが正解だと思いますが、名刺をはじめ印刷物にロゴを掲載することも出てきます。デジタルデバイスと印刷物では表現できる色の範囲が変わってくるため、両者の色味のイメージにいかに違いを出さないか、色を選ぶ際に意識したところではあります。10年、20年と使われる企業のロゴだからこそ、こだわった部分でもあります。

黒瀬)現時点でリニューアルしたロゴは、ウェブサイトと弊社で開発するグロースプラットフォームStoreHeroの管理画面に掲載しています。今後はもっと掲載箇所を増やして、たくさんの人に認知していただきたいと思っています。ロゴの作り手として、どんなふうに使ってほしいといった希望はありますか?

(石山)社内外の方にStoreHeroさんの目指すものが伝わり、認知の一助となると嬉しいなと思います。また、グロースが進展していく様を表現したメーターのデザインについては、ロゴとしては面白い仕掛けになっていると思います。ロゴを掲載していただくプロダクトに関しては、StoreHeroさんやそのクライアントが実際にどのように使っていただくかは僕もわからない部分がありますのでロゴがその役目を果たせるとうれしいなと思います。

(黒瀬)社内のエンジニアたちにも、ロゴのメーターの造形については、グロースが進展していく様を表現していることは伝えてあります。ゆくゆくは、プロダクト内でグロースの進捗度合いをロゴのメーター造形を使って表現できたらと考えています。

(河野)僕たちがデザインしているものは、車や鉄道のように、走ってなんぼ、レースに勝ってなんぼのものだと言いました。どれだけ使っていただいたかが石山くんの自信にもなりますし、使われる中で見えてくるものもあります。「こんなふうに使われるんだったら、もっとこうしておいたほうがよかった」とかですね。実は、自分がデザインしたものが実際に使われている現場を見ることによって新たな気づきを得ることができるチャンスは、クリエイターにとってもそれほど多くないのです。石山くんにとっては自分の子どものように、世の中に出ていくとこんなふうに役に立っていくのかを見ることができるのが非常に大きいです。

そして、やはり成長するサービスや事業にかかわらせていただけることは、クリエイターにとっても大きな経験になります。もちろん僕らは、お仕事をいただいたすべてのブランドの成功確率を上げていくためにコミットするわけですが、その成否は、ブランドやプロダクトのその時の力や状態も大きくかかわってきます。また、石山くんがクリエイティブ歴20年のベテランで、超大規模案件しか担当していないクリエイターだったら、合わなかったでしょう。「今の石山くんをこの仕事に抜擢することでうまくいったらすごいことになる」という出会いはなかなかないんです。

ブランドとクリエイター双方にとって、その時しか味わえない経験というのがあって、その出会いを生み出すのが僕の仕事かなと思っています。

(黒瀬)ありがとうございます。お仕事をお願いした当初、石山さんはがフラクタに入社されて1〜2ヶ月目で「これから頑張ろう」という時期だったわけですね。同様に僕らも、プロダクトをリリースして頑張ろうというタイミングでした。当時はそこまで考えていたわけではありませんが、今のお話を聞いて、石山さんを抜擢していただいた背景について「なるほどな」と思いました。


(石山)あのロゴは、あくまで黒瀬さんをはじめとするStoreHeroさんから飛び出したもので、今のStoreHeroさんの姿勢を描けたのではないかと思っています。河野の申し上げたとおり、使い倒していただけると嬉しいなと思います。

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