2025年も終わりを迎えようとしている今、コマースにおける広告運用の世界はかつてないスピードで変化しています。生成AIの実用化、プラットフォームの仕様変更、そしてCookieレス時代におけるデータ計測の課題。
今回は、小売・コマースの運用型広告に精通するYuwaiの田中氏と、縦型動画やSNS広告のスペシャリストであるアナグラムの西村氏をゲストに迎え、2025年の振り返りと2026年に向けた広告戦略について徹底討論しました。
Googleマーチャントセンターの裏側から、TikTok Shopの現在地、第三者配信におけるクリエイターアサインの極意、そしてShopifyマーチャントが直面する技術的な落とし穴まで、現場の最前線でしか語れない濃密なノウハウをお届けします。

左:株式会社yuwai 代表取締役 田中 広樹 氏,右:アナグラム株式会社 西村 氏
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AI時代の広告運用:「コンバージョンデータ」がすべての起点になる
黒瀬:本日はよろしくお願いします。まずは2025年を振り返ってみたいのですが、今年は広告運用の領域においても「AIによる自動化」が浸透した1年だったように感じます。この状況下で、広告主はどのような対策を取るべきだったでしょうか。
田中:そうですね。運用型広告のシステム内部には、すでにAIが深く入り込んでいます。重要なのは、「そのAIを正しく駆動させるためのデータを人間がいかに供給できるか」という点です。
ほとんどの広告主にとって、広告の目的はコンバージョン(購入や申し込みなど)です。GoogleやMetaの自動入札機能は、AIが誰に広告を出せばコンバージョンするかを予測して動いています。つまり、正確なコンバージョンデータがAIにインプットされていなければ、自動入札は正しく機能しないということです。
しかし今、iOSのITP(Intelligent Tracking Prevention)や、GDPRなどの法規制により、Cookieベースの計測が非常に難しくなっています。AIは大量のデータを欲しているのに、取れるデータは減っているというジレンマがあるわけです。
ですので、小手先のクリエイティブ改善や管理画面の調整を行う前に、欠損のないコンバージョンデータを計測できる環境(サーバーサイド計測など)を整えることが、今の広告運用における最優先事項だと言えます。
黒瀬:なるほど。TikTokなどの他のプラットフォームでも同じことが言えるのでしょうか?
西村:はい、TikTokやMetaも同じ傾向です。媒体側の方向性として、ターゲティング設定は人間が細かく行うのではなく、クリエイティブと予算、そして目標さえ入れれば、あとはAIが配信を最適化するという世界線を目指していると感じています。
コンバージョンデータが十分に蓄積されているアカウントはAIの恩恵を受けやすく、そうでないアカウントは機械学習が回らず苦戦する。この二極化はTikTok広告やMeta広告でも見られますね。
黒瀬:日本でも広がりを見せている「TikTok Shop」での購入データは、通常のTikTok広告の最適化にも活用されるのでしょうか?
西村:現状ではそういった情報は確認できていません。前提として、TikTok Shop内の販促メニューと外部サイト(Shopifyなど)へ誘導する広告メニューは明確に分かれており、現場の体感としてもTikTok Shopの購入データが通常の広告のターゲティングに影響している印象は今のところないですね。
Google検索のAI化と「ショッピンググラフ」の攻略法
黒瀬:Google検索も、AI Overviewの導入で検索結果の風景がガラリと変わりました。SEO業界では大きな激震が走っていますが、コマース事業者としてはどう向き合うべきでしょうか。
田中:検索結果に「人気の商品」や「おすすめショップ」が表示される機能がありますが、あれはGoogleショッピングが持つデータベース「ショッピンググラフ」の情報を参照しています。
このショッピンググラフに正しい情報を送るために不可欠なのが、Googleマーチャントセンターです。つまり、AI検索時代において商品を表示させるためには、マーチャントセンターを通じて、Googleに正確でリッチな商品データを渡し続けることがこれまで以上に重要になります。
黒瀬:具体的に、商品フィードの中で優先すべき項目は何でしょうか?
田中:Googleが重要視しているのは、主に以下の要素です。
- 商品を識別する情報: JANコード、ブランド名、型番(MPN)など。これがなければGoogleは商品を正しく認識できません。
- 高解像度の画像: メイン画像に加え、サブ画像を上限いっぱいの10枚(合計11枚)登録すること。サイズは1024px以上が推奨です。
- 正確なタイトル: 検索クエリにマッチする適切な商品名。
- Google商品カテゴリ: 正しいカテゴリへの紐づけ。
これらに加え、業種ごとに必要な項目が異なります。例えばアパレルであればサイズ・色・素材といったスペック情報も必須です。
黒瀬:画像については、どのようなものが好まれるのでしょうか?
田中:最近では、アパレル向けに「バーチャル試着ツール(Virtual Try-on)」という生成AI機能がGoogle上で提供されています。ユーザーが自分の写真をアップロードすると、商品が合成されて試着イメージが見られる機能です。
これに対応するためには、「平置き画像があること」や「マネキンの手が服に被っていないこと」などの要件があります。また、Amazonの商品画像ガイドラインなども参考になりますが、「それを着た時、使った時の自分が想像できる画像」を用意することが、クリック率を高める鍵になりますね。
TikTok Shopの日米格差とTikTokネイティブな商品開発
黒瀬:TikTok Shopについて、Shopifyとの連携も強化されていますが、日本の現状はどう見ていますか?
西村:公開されているデータによると、日本での2025年7〜9月の3ヶ月間の流通総額(GMV)は約40億円と言われています。一方で、先行するアメリカでは、ローンチ直後の1ヶ月間で約440億円規模の流通を生み出しました。市場規模の違いを考慮しても、日本はまだロケットスタートとは言えない状況です。
黒瀬:なぜアメリカではそこまで爆発的に普及したのでしょうか?
西村:理由は大きく2つあると考えています。
1つ目は、TikTokというプラットフォーム自体の浸透度です。政治的な議論はあるものの、アメリカのユーザーは非常にアクティブで、TikTok上で物を買うという行動が日常に深く根付いています。
2つ目は、TikTokに最適化された商品・ブランドの存在です。アメリカでは、商品企画の段階からTikTok Shopでどう売るか、どうすれば動画映えするかを計算して作られたD2Cブランドが数多く登場しています。例えば、クリエイターにギフティングしやすいように送料がかからないコンパクトなパッケージにするなど、動画映えする使用前・使用後の変化がわかりやすい商品にするといった工夫です。
日本ではまだ既存の商品をTikTok Shopに掲載しているだけのケースが多い印象ですが、アメリカではプラットフォームの文脈にフィットしたブランドが市場を牽引しているのが大きな違いだと思います。
第三者配信の活用とクリエイターアサインの極意
黒瀬:SNS広告においては、ブランド公式アカウントからの発信だけでなく、クリエイターの投稿を広告クリエイティブとして活用するケースも増えていますよね。Metaのパートナーシップ広告やTikTokのSpark Adsなど、いわゆる第三者配信と呼ばれる手法について、活用のポイントを教えてください。
西村:おっしゃる通り、現在はプラットフォーム側もクリエイターコンテンツを活用した広告配信を強く推奨しています。従来のインフルエンサー施策は、投稿して終わりで効果計測が難しいことが多かったのですが、第三者配信を使えばリンク先を自由に設定できる、ターゲティング配信ができる、CV計測ができるというメリットがあり、成果を可視化しながら売上を作ることが可能です。
黒瀬:成功させるための鍵はどこにあるのでしょうか?
西村:最大のポイントはクリエイターのアサインです。多くのブランドがやりがちなのは、フォロワー数が多い人を選ぶことですが、第三者配信においてはフォロワー数は重要ではありません。
今のSNSのアルゴリズムは、フォロワー数よりもコンテンツの質(エンゲージメント)で拡散力が決まります。フォロワーが少なくても、商材と親和性が高く、かつフォロワー・非フォロワーを問わず高いエンゲージメントを獲得できるクリエイターを選ぶべきです。
黒瀬:アサイン後のコンテンツ制作についてはどうでしょうか?
西村:ブランド側がコンテンツの演出や表現をコントロールしすぎないことが鉄則と考えています。企業側がコンテンツに対して細かく指示を出してしまうと、プロモーション色が強く出てしまい、その結果ユーザーが違和感を察知してスキップしてしまう場合があります。クリエイターごとの世界観やトンマナを尊重し、多少粗削りでもその人らしい動画を作ってもらう。そのリアルさこそが、タイムラインに馴染み、ユーザーが手を止める要素になります。一方で、商品やサービスの特長や訴求に含めるべき要素については、ある程度ブランドが定義してクリエイターに伝えることも重要です。ブランド側が押さえるべき点と、クリエイターの裁量に任せる点のバランスが成功の鍵になってきます。
田中:僕も同感ですね。TikTokやInstagramは、ユーザーが受動的に楽しんでいる場なので、そこに企業の宣伝が異物として入ってくるとノイズになってしまう。クリエイターの文脈に乗せることで、そのノイズを和らげ、自然な形で商品を届けることができますからね。
Shopifyマーチャントがハマる広告運用の落とし穴
黒瀬:私たちStoreHeroはShopifyマーチャントをご支援していますが、Shopifyならではの広告運用の注意点について教えてください。
田中:今年、私が特に痛感した落とし穴は3つあります。
① Checkout Extensibilityへの移行問題
Shopifyの新しいチェックアウト環境(Checkout Extensibility)への移行です。これにより、チェックアウト画面がセキュアな環境(サンドボックス化)になり、従来のGTMタグや広告タグを直接埋め込む方式が使えなくなりました。
GoogleやMetaなどの主要プラットフォームは専用の販売チャネルアプリ経由で計測が可能ですが、問題はYahoo!広告やLINE広告などの国産メディアです。これらは公式のShopify連携アプリが存在しないケースが多く、何もしないとコンバージョン計測ができなくなってしまいます。
これに対応するには、StoreHeroさんのような計測ソリューションを導入するか、サーバーサイド計測を実装する必要があります。2026年の夏には、Plus以外のプランにも適用が拡大される予定なので、早急な対策が必要です。
② Merchant APIへの移行によるデータソース増殖問題
これはGoogle側の仕様変更ですが、ShopifyとGoogleマーチャントセンターを連携する仕組みが、従来のContent APIからMerchant APIへ移行しています。
この移行自体は自動で行われることが多いのですが、Shopify側でマーケット設定や言語設定を変更すると、マーチャントセンター側に意図せず大量のデータソース(フィード)が生成されてしまう現象を確認しています。
これまで補助フィードやフィードルールを使って商品データをカスタマイズしていた場合、データソースが変わるとそれらの設定が外れてしまい、「気付いたら最適化していたはずの商品タイトルが元に戻っていた」「セール価格が反映されていない」といった事故に繋がります。アプリ任せにするのではなく、マーチャントセンターの中身を定期的にチェックする運用体制が不可欠になっています。
③ サイト表示価格とフィード価格の不一致による不承認
これもShopify特有の落とし穴ですが、Shopifyアプリを使ってサイト上の価格や送料を動的に書き換えている場合に発生する問題です。GoogleマーチャントセンターにはAPI経由で定価のデータが送られているのに、Googleのクローラーが実際にサイトを見に行くと、アプリによって会員限定価格や動的な送料が表示されていることがあります。
すると、Googleはフィードの価格とランディングページの価格が一致していないと判断し、商品を不承認にしてしまいます。最悪の場合、アカウント停止のリスクもあります。特に、定期購入アプリや会員限定アプリ、送料カスタマイズアプリなどを入れている場合は、クローラーがどういう価格を見ているのかを確認し、整合性を取る対策が必要です。
2026年の展望:AI疲れの反動と人間味への回帰
黒瀬:最後に、来年2026年に向けての展望をお聞かせください。
西村:動画領域では、Soraなどの生成AIで制作した動画が広告やコンテンツに溢れかえるようになるでしょう。ただ、その反面、ユーザーのAI疲れのような現象が起きるのではないかと予想しています。誰もが手軽にきれいな動画を作れるようになる分、コンテンツが飽和し、ユーザーは「これはAIで作ったな」とすぐに見抜くようになります。
その反動として、生身の人間のリアルな声、手作り感、嘘のないレビューといった、人間味のあるコンテンツの価値が相対的に上がっていくはずです。ブランドの運営者自身の言葉や、お客様の熱量の高いレビューなど、AIには模倣できない体温のある情報が、これまで以上に購買の決め手になるのではないでしょうか。
田中:私も同感です。生成AIでいくら美しいバナーや動画を作っても、どこか違和感が残ったり、シズル感が足りなかったりします。今日別の場所でも話したんですが、生成AIはお寿司を食べられないから、お寿司の本当の美味しさは表現できないんですよ(笑)。食べた時の顔のほころびや、本当の感動は、人間にしか表現できません。また、コカ・コーラがホリデーシーズンのキャンペーン用に生成AIで制作した動画が、シーンによってタイヤの数が違うなどで炎上したように、大手企業がAIを使う際には著作権や商標、肖像権のリスクもつきまといます。
2026年は、AIを効率化のために使いこなしつつも、最後は人の手を加えて人の想いを乗せるという、本質的なクリエイティブへの回帰が進む1年になるのではないでしょうか。
黒瀬:テクノロジーが進化すればするほど、逆説的に人間らしさが価値を持つようになるというのは非常に興味深いですね。
田中さん、西村さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!
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